鍼灸大阪127号 一枝のゆめ財団についてのインタビュー記事

鍼灸大阪127号 一枝のゆめ財団についてのインタビュー記事

鍼灸大阪127号 森ノ宮医療学園出版部

一枝のゆめ財団についてのインタビュー記事

藤井亮輔

筑波技術大学保健科学部教授、一枝のゆめ財団専務理事

(聞き手:編集部)

 

―『一枝のゆめ財団』の設立をお聞きしたのは今年の6月の全日本鍼灸学会東京大会会場でした。ついに動き出されたな!というのがそのときの印象で、ぜひ設立の経緯やビジョンを伺いたいと思っていました。

藤井:財団発足のきっかけは、あはきの業を活性化するにはどうしたらいいか、アイデアを出すようにと業界団体から宿題をいただいたことで、自分の中で考えを整理して、平成27年7月に三療プラザ館設立構想を発表したのがスタートです。そのときは誰も本気にしていなかったようですが、それから幸い賛同者を得て、約半年後の平成28年1月にプロジェクトチームを立ち上げて、平成29年3月31日に登記完了し正式に財団を設立したということです。まだホヤホヤで、ようやく半年が経ったところですが、来年6月に公益財団に昇格できるよう認可申請の準備を進めているところです。

―『一枝のゆめ』とはいいネーミングですね。ロマンチストの藤井先生らしいです。

藤井:いやーそうですか(笑)、プロジェクトチームの皆で色々考えて、結局これに決まったのです。趣意書にも書いていますが、聖武天皇が大仏造営にあたり「一枝の草、一すくいの土でも」と寄進を呼びかけたという故事に因んでいます。鍼灸マッサージ療法(三療)に関係する一人ひとりのゆめが大樹に育つ過程を応援する財団です。鍼灸あん摩マッサージへの理解者・協力者の輪を広げていきたいと思っています。

 

リエゾン型臨床研修施設を目指す

 

―構想に描かれている三療プラザ館は一種の統合医療・医療連携の拠点のようですね。

藤井:東洋療法と西洋医学のクリニックを統合した、リエゾン型の臨床研修施設を目指しています。夢物語かもしれませんが、ホンモノに触れられる、ホンモノを学べるという、これまでにないキラッと光るものにしたいと思っています。きちっとした技術を学べる場は、実際は少ないですからね。それを東京オリンピックの年に都内に造りたいと思っているのです。

―少し前から駅前などに手軽に入れるマッサージのチェーン店がたくさんできています。それに比べると、市井の治療院で看板にマッサージと書かれていても、個人的な繋がりなどで紹介してもらう以外、一見さんではなかなかハードルが高いというのも現実としてあります。

藤井:PRが上手くて入りやすいところに行くわけです。結局、銀座の高級な鮨店みたいに、入るのが怖い、どの治療院に行ったらいいかわからないというのはありますね。実際、素晴らしい先生方はたくさんいらっしゃるのですが、入り混じっているわけです。それで、なにか眉唾もののようになってしまっているのです。昭和50年代あたりまではそうじゃなかったですからね。一般に認知されていて、開業したら一定程度の生活はできるくらい患者さんが来られていました。

実は、昨年11月に2万人のあん摩マッサージ指圧業を行っている方々を対象に調査をしたのですが、三療の有資格者の治療院に来るのは1ヶ月平均45人くらいなのです。ほとんど接骨院や無資格のところなどに行っているのでしょうね。1回の施術料金が3~4千円でしたので、大体1ヶ月100人患者さんが来ると生活できるわけですから、現状では生活は厳しい状況です。しかも無免許者の店舗値崩れも起こっていて、免許を持っている人の施術料金も下げざるを得ない状況です。

―無資格者マッサージについてはずいぶん前から問題となってきましたし、昨年にはあん摩マッサージ指圧の資格取得の規制に関しての裁判もスタートしました。

藤井:まあ、一連の裁判についてはいろいろな問題を孕んでいますし、どのように影響するかも一概にはいえませんが、ただ、裁判で国が敗訴してあん摩の資格取得ができる学校が自由化されたら、先ほど申し上げた45人を取り合うような状況になるでしょうし、鍼灸師の経営も一段と厳しさを増すことでしょう。結局は、そういう業界になぜなってしまったのかということです。

―免許取得者と同時に開業権が与えられるということが裏目に出ているとも言えるでしょうか?

藤井:そうですね。住み込みで修業させてくれる治療院があちこちにあって、そこでいろいろ学びながらお金を貯めて開業する。そういうかつてあった循環がなくなってしまいましたからね。医師も理学療法士(PT)、作業療法士(OT)も看護師も卒業後にかなり研修をやります。鍼灸マッサージでは卒業後に勉強するという文化が未だ育っていないですね。関東圏で卒業後の研修生を受け入れている施設は4カ所くらいです。しかも受け入れられる人数は1箇所に5~6名ですよね。個別の勉強会は結構あるようですが。

 

手から手へホンモノの技術を伝える

 

―一枝のゆめ財団では卒後研修も行われているのですね。

藤井:実技を中心とした卒後研修が事業の柱です。平成29年9月からはリハビリテーション入門講座(6日間、30時間)とオイルマッサージ入門講座(4日間、20時間)の2講座がすでにスタートしているのですが、広くPRをしなかったにもかかわらず、結構応募があって熱心な方が集まりました。皆、求めているのですよね。実技のトレーニングは在学中にはなかなかできない。座学偏重だから。ましてや臨床なんて‥。だから彼らは求めているのです。

―やはり技術は不足していますか?

藤井:残念な話ですが、実際、基礎・基本が十分できていない卒業生が少なくありません。開業するタマゴが十分な臨床トレーニングを受けていないということを一般の方が知ったらどうでしょう、と思うのです。我々は治療を全て自分の技術でやらなければいけないわけですからね。本来トレーニングは大変な時間とエネルギーが要ることなのです。だから、芹沢勝助先生は1980年に東洋医学技術教育振興財団を創られたのですが、閉鎖になって四半世紀が過ぎました。先生の遺志を継ぎたいという気持ちもどこかにあって、いわば平成版のあはき研修センターをスタートさせたわけです。

―藤井先生も講師をされていますね。

藤井:はい。僕も講師をやりますし、ほかに財団の趣旨に賛同していただける先生方に講師をお願いしています。鍼に劣らず、あん摩やマッサージも難しいのです。指の感覚が問われますし、上手い下手で効果に天地の差があります。疲労回復程度だったら誰でもできるようになるけれど、症状を取るのは難しい。実は、あん摩マッサージでも鍼の響きに似たような感覚を与えることが大事なのです。神経を刺激する、筋肉やコリを捉える、それぞれ技術が異なるし、そこのところを手から手に技術を伝えるというのを臨床に即してやります。鍼灸師の臨床研修にも力を入れていきます。

―少しお約束の時間より早く着いたので、一枝治療院の小島先生にマッサージをしていただいたのですが、先生の手が私の身体から離れるとき体の中にすーっと沁みていくような心地良い余韻が残りました。

藤井:幸せホルモンというのがあるのをご存じですか?オキシトシンです。あん摩マッサージでオキシトシンが出るのが心理学の分野では検証されているのです。患者さんだけではなくて、施術者にもオキシトシンが増えるのです。やっている人も幸せになる。臨床試験が全くされていなかったから、眼精疲労に対するあん摩療法でその研究を進めているところです。なかなかそういう域に達するのは難しいですが、実は、僕は、オキシトシンが出ているのがわかるのですよ(笑)。

―施術者側にも出るのは知らなかった。それはすばらしいですね。藤井先生の治療をぜひ受けたいです。一般の方への治療もOKですか?

藤井:一般の患者さんの治療ももちろんやります。公益を目指していますので、敷居は高くしていません。これも一つの開業ですから。ただ、いざ自分で開いてみると開業は大変なことが実感としてわかりますね。我々はどちらかというと武士の商法的で、財団の顔ぶれを見ると、これで大丈夫なのと皆さんに言われます。経営面もしっかりやっていかないとと思っています。

地方への出張講座も参加者が10名以上集まれば、行かせていただきます。ぜひ呼んで下さい。交通費はいただかないといけませんが。

 

三療は医療文化

 

―ところで、歴史的制度的な点はもちろんあると思いますが、鍼灸とマッサージはもっと一体化できないものでしょうか?

藤井:日本の鍼は、まず触察が問われるわけですね。ということは、そこに当然撫でたり押したりという行為が入ってくる。それで前揉捻、後揉捻というのがあるわけです。あん摩と鍼・灸をどこで線引きするか、実態としては難しい。鍼灸もマッサージも免許を一本化したらどうか、というのを今、僕のところ(筑波技術大学)の客員研究員が歴史的に研究して論文を書こうとしています。どういうものが出来上がるか楽しみにしているのです。

三療は医療文化ですからね。来年から新カリキュラムが実施され、鍼灸学校であはきの歴史を教えなければならないことになりましたし、できれば財団でも、あはきの近現代史の講座を開きたいですね。歴史を知らないと自分の立ち位置がわからないままになりますからね。

―客員研究員の先生のご研究テーマは面白いですね。楽しみにしています。では最後に、今後のご予定を教えてください。

藤井:先ほども申しましたが、当初は平成32年に公益化を目指す予定でしたが、前倒しして来年(平成30年)にと準備を進めています。相当のエネルギーがいりますが、財団は収益部分がないので、税法上等でも公益化は不可欠です。

趣意書にも書いていますが、鍼灸マッサージの業に就いている方たち、それから志す人たち、全ての人たちを対象にという理念で、あはきの世界に元気を吹き込む仕事のお役に立ちたいと考えています。

―本日は、ありがとうございました。支援の輪が広がっていくことを期待しています。

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