月刊 視覚障害(9月号より転載)

月刊 視覚障害(9月号より転載)

世界に誇る技の証明

あん摩マッサージ指圧コンテスト初開催

鍼灸マッサージ療法(三療)の発展と、従事者の幸福の追求、地域医療と国民衛生の向上などを理念に掲げる一枝のゆめ財団(矢野忠理事長=明治国際医療大学学長)は、7月28日、東京・竹橋のマイナビルームで、「第1回一枝のゆめフェスタ あん摩マッサージ指圧コンテスト2018」(近藤宏実行委員長=筑波技術大学講師)を開催した。全国から集まった有資格者が技を競う初めてのチャンピオンシップと、三療の魅力を発信するイベントも行なわれ、「業界に元気を取り戻してほしい」との思いを集結。台風12号の影響が心配される中、選手・審査員を含めて全国から200人余りが参加した。(本誌)

 

最優秀賞は太田一郎さん!

コンテストに出場したのは全国から応募した28名(エントリーは32名)。評価はプロ審査と一般参加者による審査の2種類の結果を総合する方式だ。

プロ審査の部は、有資格者2名に対するベッドでの背腰部施術15分、一般参加者による審査の部は、主に公募による審査員4名に対して、座位での肩背部施術10分をそれぞれ行ない、持ち点はプロと一般それぞれ50点。治療院等を訪れる一般の患者の目線も大切にするため、挨拶や施術中の会話など、ホスピタリティも審査の対象となった。

競技が始まると、選手の気迫が会場を満たす。出場者は、それぞれ日々の鍛錬で磨き抜いた技をいかんなく発揮した。

厳正な審査の結果、最優秀賞には太田一郎さん(静岡県)、優秀賞には橋口賢一さん(熊本県)と木下誠さん(東京都)が決定した。

太田さんは、静岡県熱海市の東海医療学園専門学校附属総合臨床センターでセンター長を務める。手技が好きで、たくさん練習をしてきたという自負があっただけに、「先輩もたくさん出場されており、(最優秀賞は)とてもありがたい」と喜びもひとしおの様子だった。

最優秀賞に加え、太田さんには日本盲人会連合会長賞と副賞3万円も贈られた。「第1回コンテストの開催にあたり、日本盲人会連合からも表彰したい」と駆けつけた日盲連の竹下義樹会長が、直接手渡した。

優秀賞の橋口さんは熊本市で鍼灸院を営み、「(最優秀に至らなかった点を)改良して、2回目3回目も参加したい」と意欲を示した。同じく優秀賞の木下さんも東京・神楽坂で指圧専門の治療院を営む。やはり結果には必ずしも満足していないようで、「本当は最優秀賞が取れるまで参加したい」との感想だった。

 

ツボの効果と美顔のポイント

コンテストと並行して、来場者向けの講演会などのイベントも行なわれた。

「東洋医学でセルフケア~養生とツボの智慧でイキイキライフを~」では、矢野理事長が西洋医学と東洋医学の両面から「老化」を解説。西洋医学では「活性酸素」、東洋医学では「腎気の盛衰」によって老化が発生すると捉えられており、生活習慣を整え、ストレスを減らすことで、若々しく元気に暮らすことができると説いた。

その実践として紹介したのが、貝原益軒の『養生訓』。益軒は江戸時代の本草学者・儒学者で、ただ長生きをすればよいのではなく、自然治癒力を信頼し、真に人生を楽しむことが重要だと記している。

自然治癒力を活かすセルフケアとして勧められたのが、「ツボ(経穴)」を活用する養生だ。ゴルフボールやヘアブラシを用いて簡単にツボを刺激する方法と、具体的なツボも解説。たとえば大椎穴(だいついけつ)は、首を前に倒したときに、首と背中の付け根に飛び出る骨の下にあるツボで、風邪の予防に有効だ。夏場のクーラーの効きすぎた部屋でも、そこにハンカチ等を当てるだけで、からだの冷えが軽減されるという。ツボは自分で刺激するだけでなく、「家族のコミュニケーション・ツールとしても有効」とのことだった。

土門奏さん(土門治療院院長)の講演「美顔率セルフマッサージケア 施術者も患者も『納得』の手技と運動法」も好評だった。

土門さんは治療院での経験から、老化によって自信をなくしている人に対しては、「鍼や手技だけではなく、患者の気持ちに寄り添った治療を目指している。美顔治療には、施術だけでなく、患者自身が行なうセルフケアも重要だということだ。魅力的な顔を研究する中で、土門さんは「平均顔」というものに出会った。平均顔とは、複数の人の顔の画像をコンピュータで合成して、平均化する技術だ。「無難な、ほどほどの顔になってしまうのでは?」と思われがちだが、意外にも、「ちょっと整っている」「賢そう」「健康そう」「性格がよさそう」に見えるという。そこから、顔の配置やバランスの大切さ、そして「美顔率」という黄金比率に気づいたそうだ。

それらを踏まえて考案した、患者自身が行なえる美顔マッサージ法を、実技を交えながら来場者に紹介した。ただし、「効果はすぐに現われない」というのも、忘れてはならないポイントのひとつだ。

会場内では、そのほかにも大学教授らによる東洋医学健康相談会、有資格者のワンコインマッサージ(500円で15分ほど)、2020年の東京オリンピック・パラリンピックによる外国人観光客の増加などをにらみ、外国人への応対を学ぶベッドサイド英会話教室も行なわれた。

 

夢は叶う

表彰式の後に行なわれたのは、全盲のセーラー・岩本光弘さんとニュースキャスターの辛坊治郎さんによるスペシャルトークショー。

岩本さんと辛坊さんは2013年、「ブラインドセーリング」プロジェクトで、全盲者と晴眼者の2人による世界初の太平洋横断に挑戦、6月8日に小型ヨット・エオラス号で大阪港を出帆した。しかし、21日朝、宮城県金華山の島南東沖約1,200kmでマッコウクジラと衝突し、浸水により航海を断念。船を手放し、救命ボートで避難、海上自衛隊に救助され、九死に一生を得た。

意外な組み合わせの2人だが、岩本さんがアメリカ人の夫人キャレンさんの影響でセーリングに興味を持ち、ヨット、モーターボートの専門誌『Kazi』を読んでいたことから、同紙に連載をしていた辛坊さんとつながった。短い冒険とはいえ苦楽を共にした仲で、辛坊さんは岩本さんを「ヒロさん」と親しげに呼ぶ。そして、テレビ・ラジオでおなじみの名調子で、「目」を貸すつもりが却って助けられた話や、救命ボートに飛び移った際の奇跡など、2人でいきいきと語り合った。

その挑戦は失敗に終わってしまったが、岩本さんは来年にも太平洋横断に再挑戦する計画。「失敗は成功を100倍、1000倍にするためにある」「すべてのことには意味がある」とあくまで前向きだ。

岩本さんは先天性の弱視で(後に失明)、熊本県立盲学校から筑波大学理療科教員養成施設を卒業後、筑波大学附属視覚特別支援学校の教員になった。アマチュア無線が好きで英語にも興味を持ち、英会話スクールを通じてキャレンさんと出会い、結婚した。娘の教育のためにアメリカ西海岸に移住し、現在はサンディエゴで治療院を開設している。

理療については、日本の盲学校の教育レベルは非常に高く、世界に誇れると評価。その上で、無資格者の店舗が流行しているなら、「そこからビジネスセンスやマーケティングを学ぼう」と提案するなど「ネガティブをポジティブに変える」考え方を示した。「夢は諦めずに言い続け、‟dream supporter”を探せば必ず叶う」とも力強く語る。

あん摩マッサージ指圧コンテストも、ライセンスのアピールとして有効と評価し、さらに「世界コンテストにして、国内だけでなく世界中にアピールしたら素晴らしい」と述べた。

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hitoedanoyume administrator