月刊 視覚障害(6月号より転載)

月刊 視覚障害(6月号より転載)

一枝のゆめ財団が市民公開講座

東洋医学で元気に長生き!!

 一枝のゆめ財団(理事長=矢野忠・明治国際医療大学学長)は4月21日、東京・赤羽の赤羽会館で市民公開講座「健康と東洋医学~つぼ療法で生き生き健やかに~」を開催した。地域住民の健康と地域医療の向上を助けることが目的で、参加は無料。鍼灸やマッサージに興味を持つ市民らが参加した。

長寿の秘訣は?

講演は3本立てで、矢野さんの「東洋医学の智慧で生き生きライフ」、坂井友実さん(一枝のゆめ財団副理事長、東京有明医療大学教授)の「鍼灸ってなんだろう」、藤井亮輔さん(同財団専務理事、筑波技術大学教授)の「マッサージってなんだろう」。各分野で活躍する研究者による豪華な講演会だ。コーディネータを務めたのは、安野富美子さん(東京有明医療大学教授)。

まずは矢野さんが、『養生訓』の内容を紹介しながら、東洋医学の概要を説明した。正徳2(1712)年に福岡藩の儒学者・貝原益軒によって書かれた『養生訓』は、84歳まで長生きした益軒自身の実体験に基づいている。健康・強壮といった身体の養生だけに留まらず、精神の養生、ひいては「人生を愉しむ」ことの重要性まで説かれ、今なお多くの人に愛読されている。

東洋医学では、100歳まで生きることを「上寿」、80歳までを「中寿」、60歳までを「下寿」というが、上寿に至るには「腎気」と呼ばれる生命力をいかに補い、高めるかが重要だそうだ。益軒は「人の命は、もとより天にうけて生れ付たれども、養生よくすれば長し。養生せざれば短かし。然れば長命ならんも、短命ならんも、我心のままなり」と説く。天から授かった寿命も、養生次第では延ばすことができる、というわけだ。

健康の維持が大切なのはもちろんだが、体調を崩してしまったときには、自身の持っている自然治癒力が重視される。「病を早く治せんとして、いそげば、かへつて、あやまりて病をます。保養はおこたりなくつとめて、いゆる事は、いそがず、其自然にまかすべし」。古代ギリシャの名医ヒポクラテスも「人の体には100人の名医がいる」と説いているが、これは「内在性治癒力」というもの。人は誰もが「生体内薬局」と「生体内病院」と呼ばれる機能を持っている。だが、安易に薬などに頼ってしまい、これらの能力を活用せずにいると、かえって体が本来持っている力を損ないかねないということだ。

講演で解説された『養生訓』の一部をご紹介しよう。

①「酒は微酔にのみ、半酣(はんかん)をかぎりとすべし。食は半飽(はんぽう)に食ひて、十分に満つべからず。酒食ともに限(かぎり)を定めて、節にこゆべからず」。

ちょっと耳の痛い人もいるかもしれないが、要するにお酒も食事もほどほどに、ということ。カロリー摂取量の制限や、適度な量の飲酒によって寿命が延びるという相関関係は、科学的なエビデンスが示されているそうだ。

②「およそ人の身、慾をすくなくし、時々身をうごかし、手足をはたらかし、歩行して久しく一所に安坐せざれば、血気めぐりて滞らず」。

健康的な生活には、適度な労働やスポーツが欠かせない。ずっと座っているのは、かえってよくないのだ。

③「心をしづかにしてさはがしくせず、ゆるやかにしてせまらず、気を和(やわらか)にしてあらくせず、言をすくなくして声を高くせず、高くわらはず、つねに心をよろこばしめて、みだりにいからず、悲(かなしみ)を少なくし、かへらざる事をくやまず」。

これがもっとも重要と矢野さんも説いたが、江戸時代も現代も、ストレスは健康の天敵なのである。

また、健康的な生活を送っている人は、NK(ナチュラル・キラー)細胞が活発だという。「人が生まれながら持っている殺し屋」の意味で、ガン細胞を攻撃・殺傷してくれる細胞だ。逆に、生活習慣が乱れるとNK細胞の活動が低下してしまい、ガンにかかるリスクが上昇してしまう。

ただ、センティナリアンと呼ばれる100歳長寿の人と、それ以外の高齢者を比較しても、実は身体的な機能にはそれほど大きな差はないらしい。むしろ性格が外向的で、明るく几帳面で人づき合いのいい人、そして人に優しく、無邪気で物事への興味を失わない人が長生きする傾向が見られるという。

矢野さんは「健康長寿の秘訣は楽しく生きること」、いわゆる明るくポジティブに生きることが「不老長寿の媚薬」であるとし、そのためには内在性治癒力を活用するつぼ療法で日々元気で生活が送れるようにする伝統医療が効果的という。

環境や資源・エネルギー問題への対策としてエコロジーが叫ばれているが、自身の自然治癒力を活かす東洋医学は「究極のエコ医療」であり、「つぼで生き生きライフを送ってほしい」と締めくくった。

肩こりのつぼはここ!

坂井さんの講演では、鍼と灸の概要、鍼の安全性に加え、スポーツ選手の疲労回復、介護やリハビリでの痛みの軽減、美容の現場でも活用されていることが紹介された。現在の鍼は、ほぼ使い捨てなので感染症の恐れなく、またフィギュア・スケートの羽生結弦選手も鍼を活用している。

当日の資料と一緒に、家庭で利用できる簡易な鍼と灸の試供品が配られたのも好評だった。一つはテープ付きの接触粒で、刺さない鍼。チタン製のごく小さな粒がついた、小指の頭ほどの丸いシールを貼るだけでつぼを刺激してくれ、もちろん痛みもない。もう一つの灸も、小さな紙筒にモグサを収めたもので、簡単・安全に自宅で灸ができる。いずれも、薬局で市販されているものだ。

1日中パソコンに向かう仕事などが原因で、現代社会では肩こりに悩む人が少なくない。そんな人に知ってほしいのが、肩井(けんせい)というつぼ。首を前に倒して、首の付け根の一番出ている背骨と肩先のちょうど中間にある。「万能のつぼ」とも呼ばれる合谷(ごうこく)も、目の疲れや肩こりに有効だ。合谷は、手の甲を上にして、親指と人差し指の骨が交差したところからやや人差し指側の骨の窪みにある。

もちろん、専門の鍼灸院で施術を受けるのがベストだが、爪楊枝を20~30本まとめて輪ゴムで留め、肩や腰を刺激するのも家庭で行なえる効果的な方法と紹介された。

愛情ホルモンで幸せに

藤井さんはマッサージの魅力を、「愛情ホルモン」や「幸せホルモン」と呼ばれるオキシトシンをキーワードに説明する。また、あん摩・マッサージ・指圧の概要だけでなく、特に国家試験に合格した有資格者(医師を含む)のみが施術でき、民間のカイロプラクティックなどとは異なる点を強調した。

その上で、藤井さんは「触れることの医学的意義」を説く。揉む・さする・撫でるといったスキンシップによって生じる快感は、特別な細い神経によって比較的ゆっくりと伝わる。そのため、スキンシップ自体も1秒間に5cmほど緩やかに移動する刺激がよく、それによってオキシトシンが脳内で分泌される。オキシトシンはもともと乳汁分泌の促進などの作用が知られていたが、最近ではストレスを緩和し、他者に対して寛容になる、幸せな気分になるなどの働きもあることがわかっているという。

母親に抱かれる赤子だけでなく、抱いている母親の側にもオキシトシンが分泌されているし、動物の毛づくろいも「グルーミング行為」と呼ばれ、相互に心のケアをしていると考えられている。皮膚コミュニケーションによって、愛情や感謝など、言葉だけでは伝えきれない感情までが伝達可能なのだ。このことは、視覚障害者の伝統的な職域の1つである理療に従事する人自身の「やりがい」にもつながっているというのが藤井さんの見解だ。

藤井さんは、「ケアの本質は、共感と思いやりであり、マッサージは温もりの手仕事。手は無限のことをなしえる」と、マッサージの有効性を紹介した。

講演の後には「健康相談」も開かれ、参加者がそれぞれ、健康に関する悩みや疑問を講演者に相談した。一枝のゆめ財団では年内にも同様の市民講座を企画している。

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